愛知県総合教育センター研究紀要 第92集

養護学校等が行う特殊教育相談の支援に関する研究

− 知多地区における教育相談の実践を通して −


目  次

研究概要(抄録)

1 はじめに

2 研究の目的

3 研究の方法

4 研究の内容
 (1) 総合教育センターにおける特殊教育相談

 (2) 特殊教育相談の在り方

 (3) 実践研究報告 −愛知県立半田養護学校−
  ア システムづくり
   (ア) 校内組織  (イ) 相談会場  (ウ) 相談形態
   (エ) 広報活動  (オ) 関係機関との連携

 
  イ 相談活動の実際
   (ア) 相談活動の流れ
   (イ) 相談の実施状況
   (ウ) 相談事例

 (4) 実践のまとめ

5 研究成果のまとめと今後の課題
 (1) 地域における特殊教育相談のニーズ

 (2) 相談担当者の資質

6 おわりに








愛知県総合教育センター研究紀要 第92集

養護学校等が行う特殊教育相談の支援に関する研究

− 知多地区における教育相談の実践を通して −

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 盲・聾・養護学校には,その専門性や施設・設備を生かして地域の特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすことが求められている。本研究では,県立半田養護学校と協力し,養護学校が地域で実施する特殊教育相談の実践を通して,養護学校が教育相談センターとしての役割を担うために必要な支援の在り方について考察したものである。
 この研究を通して,養護学校が行う教育相談の在り方,学校の組織化,相談会場の設定,地域への広報活動,関係機関との連携,養護学校職員が行う相談活動への支援,担当教員の研修内容及び方法等について具体的に把握することができた。

 <キーワード>
 盲学校  聾学校  養護学校  障害児  教育相談  軽度発達障害  地域支援  連携

 <研究協議会委員>
 愛知県立半田養護学校 教諭 伊藤佐奈美
 愛知県立半田養護学校 教諭 坂林 文子
 愛知県立半田養護学校 教諭 貝沼美恵子
 愛知県総合教育センター 特殊教育相談研究室長 松井 利幸
 愛知県総合教育センター 研究指導主事 小野田明好
 愛知県総合教育センター 研究指導主事 佐藤  隆(主務者)


1 はじめに  目次へ戻る
 今,盲・聾・養護学校には,その専門性や施設・設備を生かして地域の特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすことが求められている。本研究では,養護学校が学校外に拠点を設けて相談活動を行うという実践を通し,地域支援の在り方等について探求するとともに総合教育センターの養護学校への支援の在り方について研究した。本発表では,特殊教育相談の実践を中心に報告する。

2 研究の目的  目次へ戻る
 障害のある幼児児童生徒一人一人の実態に応じた教育が適切に行われるためには,早期からの教育相談等を通して実態把握が的確に行われるとともに,特殊教育の意義が保護者に正しく理解されるようにすることが重要である。
 そのためには,盲・聾・養護学校は,「障害のある児童生徒やその保護者に対して教育相談を行うなど,各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること」が必要であると学習指導要領に規定された。特に養護学校は,県内各地に設置されていることから,地域におけるセンターとなり得る地理的条件は整っているものの,教育相談に関しては,盲学校・聾学校に比べて歴史が浅く,分掌上の位置付けについても確立しているとは言い難い。
 一方,本総合教育センターにおける特殊教育相談は,障害のある幼児児童生徒の発達援助や保護者支援に大きな成果を上げているが,継続した面接相談が可能な来談者は,本総合教育センターに比較的近い地域に限られている。
 こうした実情を踏まえ,本研究では,県内の養護学校との連携を図り,地域における教育相談のニーズを把握し,養護学校等における教育相談機能の充実を図ることをねらいとした。

<参考>
 盲学校,聾学校及び養護学校学習指導要領解説総則等編第2部第1章第9節12
 地域の実態や家庭の要請等により,障害のある児童若しくは生徒又はその保護者に対して教育相談を行うなど,各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること。
 (特殊教育に関する相談のセンターとしての役割としては,具体的には,
(1) 児童生徒に対する障害に基づく種々の困難の改善・克服を図るための直接的な支援
(2) 保護者が子供の障害を受容できるようにするための支援
(3) 良好な親子関係を形成できるようにするための支援
(4) 障害のある子供の養育に関する保護者への支援
(5) 特殊教育に対する理解促進
などが挙げられる。)

21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)第3章2
2−1地域の特殊教育のセンターとしての盲・聾・養護学校の機能の充実
1 盲・聾・養護学校は,その専門性や障害に対応した施設・設備を生かして,早期からの教育相談を実施したり,幼稚園等の障害のある幼児を指導するなど,地域の特殊教育に関する教育相談センターとしての役割を果たすこと。
2 盲・聾・養護学校は,その専門性や施設・設備を生かして,地域の小・中学校や幼稚園等に対して,求めに応じて教材・教具や情報機器等を貸し出したり,盲・聾・養護学校の教員が小・中学校等の教員に対して情報提供したり,小・中学校等の教員が盲・聾・養護学校を訪問して研修するなど,小・中学校や幼稚園等への支援センターとしての役割を果たすこと。


3 研究の方法  目次へ戻る
(1) 県立養護学校及びその地域の公共施設等を会場として,研究協力校職員と総合教育センター職員による特殊教育相談を実施し,学校が担う教育相談機能について検討する。
(2) 研究協力校及び総合教育センターにおいて,事例会議及び相談実習・研修を行い,地域における特殊教育相談についてのニーズを把握するとともに相談担当者や学校への支援の在り方について確認する。
(3) 所員研究により,養護学校が地域における相談のセンターとしての役割を果たすための課題及び条件整備について整理する。



4 研究の内容  目次へ戻る
(1) 総合教育センターにおける特殊教育相談の現状
 昨年度,教育相談に来所した幼児児童生徒と保護者及び教職員等の延べ人数は,1,236人であった。主な相談内容は,右の図1のとおりである。相談件数の多い方から順に@家庭におけるしつけや養育に関すること。A障害の程度に関すること。B就学に関すること。C幼稚園や学校等における生活や学習に関することとなっている。
 また,対象となる幼児児童生徒の年齢層は,就学前の幼児と小学生が大部分を占めている。
 ただし,図2のように平成8年度と昨年度を比較すると,この5年間で小学生の割合が多くなっていることが分かる。それは,入学後も引き続き相談に来る例が多いこと。小学校に入学してから,問題が顕在化してくる相談事例が増えてきていることが要因であると考えられる。
 このことを,図3に示した障害分類別相談件数の割合の推移から考えると,平成8年度の場合,知的障害と情緒障害の割合がほぼ拮抗していたが,昨年度は,情緒障害が全体の7割まで増加している。
 この要因は,高機能自閉症,アスペルガー障害,注意欠陥/多動性障害(ADHD)及び学習障害(LD)などの,いわゆる軽度発達障害児の相談件数が増加したことによる。
 これらの軽度発達障害児は,小学校へ入学後,学級集団への不適応や学習進度の遅れなどの教育的課題が明らかになって相談を申し込む場合が多く,それが小学生の相談件数増加の原因になっていると考えられる。
 なお,地区別の相談件数は,図4のように,総合教育センターに比較的近い地理的条件にある,尾張,西三河,豊田加茂教育事務所管内からの相談が,全体の4分の3を占めている。




(2) 特殊教育相談の在り方  目次へ戻る
 保護者がわが子の様子に不安を抱き,思い切って病院を訪れ,診断の結果医師から障害児であることを告げられたときの保護者のショックは計りきれないものがある。最初は,動揺と不安のなかで障害を否認する気持ちが働き,病院を巡り歩くということになる。しかし,どこでも同じような診断を受ける場合,徐々に失望感とあきらめの気持ちを抱き,その後,長く心の闘いが続くことになる。
 特殊教育相談は保護者自身が障害児を抱えることによって生じる混乱した状態を克服して,わが子の障害をありのままに認め,家族の一員として受け入れるという保護者の障害受容に向けての援助を行うことである。さらには,子供が現在もっている能力及び可能性を最大限に発揮できる養育,教育の場を確保することへの相談・支援を進めることが必要不可欠である。また,障害児をできるかぎり早期に発見し,その養育,訓練について指導方法等の助言をし,障害児自身が障害に基づく困難を改善・克服するようにしていくことが,特殊教育相談に課せられた機能の一つでもある。すなわち,保護者の悩みや不安の解消を図り,子供と保護者が安定した気持ちでよりよい生活をつくり出していけるように,一人一人の子供のもつ課題を把握し,心身の調和的発達を促す支援としての相談が特殊教育相談である。
 総合教育センターにおける特殊教育相談の現状から分かるように,教育相談の中で軽度発達障害児に関する相談の割合が多くなってきた。これらの子供には,家庭だけではなく幼稚園や保育園,学校等での長期にわたるきめ細かな対応が鍵になると考えられる。このことから,保護者と学校等の双方を継続的に支援していく相談の役割が一層重要になると考えられる。そのためには,地域の身近なところに相談できる場所が必要であり,養護学校等が特殊教育相談を担当していくことが急務であると考えられる。




(3) 実践研究報告 ―愛知県立半田養護学校―  目次へ戻る
ア システムづくり
 本校では,平成13年度より総合教育センターの研究協力校の委嘱を受け,地域における特殊教育相談業務を開始した。文部科学省の「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」で述べられている,養護学校の地域における特殊教育のセンター化としての役割に向けて,総合教育センターの協力を得て校内組織等のシステムづくりから始めた。

(ア) 校内組織
 平成13年度は9月からのスタートとなり,教務部の中に教育相談係を新たに設け,これまでに総合教育センター等で教育相談関係の研修を受けた4人の教諭が地域の特殊教育相談にあたることになった。しかし,それぞれが他の係との兼務であり,従来の校務分掌会議の中では十分に事例や相談内容・方法について検討する場や時間が設定できないことが問題となった。そこで,14年度からは新たに校務分掌「地域支援部」を起こし(図5),8名の担当者が業務にあたることになった。
 校務分掌の名称については,当分の間「地域における特殊教育相談」に絞って業務を行うことになるが,将来的には養護学校が地域の特殊教育センターとして求められている情報提供機能や研修機能等をも担っていくことを考え,「地域支援部」とした。また,「地域支援部」の新設に加え,「教育相談委員会」を新たに設け,校内外の児童生徒指導や教育相談等について,さらには今後の養護学校のセンター化に向けて本校の在り方を検討する場として設定した。

図6 雁宿ホール プレイルーム
(イ) 相談会場
 相談会場には,相談室と遊戯室の両方を備えた施設であることを選定の第一条件とした。学校内に相談室を設けることも検討したが,相談者のプライバシーの保護や養護学校に在籍する児童生徒数の増加による教室不足,相談者の来談しやすさ(交通の便,心理的抵抗感)の観点からも学校外の施設を相談場所として設けることにした。
 現在,半田市教育委員会の協力を得て,半田市福祉文化会館(図6 雁宿ホール)内と半田市立岩滑小学校内に相談会場を設けている。

(ウ) 相談形態
 相談は,全て予約制で実施している。相談希望者は,事前に半田養護学校に電話による申込をし,担当者から相談日時の連絡を受け,上記の相談会場に来談することになる。
 相談日は,毎週火曜日と金曜日の午後(13時30分から16時30分)に設定し,事例に応じ,母子並行面接,保護者及び教員等への個別面接を行っている。幼児児童に対しては,遊戯室での行動観察を主に行っている。

(エ) 広報活動
 特殊教育相談業務についての広報活動として,知多地区の5市5町の広報誌へ記事の掲載とリーフレットの作成及び配布,さらに,本校のホームページにも業務概要を載せている。
  市町の広報誌への記事の掲載
 平成14年5月から6月にかけて,知多地区の5市5町の教育委員会に依頼し,広報誌に「ふれあい相談」という見出しで,記事を掲載してもらった。校外に対しては「地域支援部」という名称でなく外部の人に親しみやすい「半田養護学校ふれあい相談部」という呼称で,PRを行っている。なお,今後も年に2〜3回の割合で,各市町の広報誌への掲載を依頼する予定である。
  リーフレット
 リーフレットについては平成13年度に作成し,平成14年度4月に各市町の教育委員会に50部ずつ配布を依頼した。各学校あてに配布をしてくださった教育委員会もあり,特殊学級の担任及び保護者より相談申込があったケースもあった。まだまだ地域に周知されるまでには至っていないことから,今後も各市町の教育委員会及び知多教育事務所への配布を計画している。(図7)
  ホームページ
 平成14年度内に半田養護学校のホームページが開設される予定であり,それに合わせて,「ふれあい相談」のページも掲載する。ふれあい相談の対象,相談内容,相談日時,相談場所,申込方法,申込先について知らせる内容になっている。当面は,ホームページ上での書き込みやメールによる申込は,個人情報の保護等の問題から受け付けない予定である。

(オ) 関係諸機関との連携
知多地区では,社会福祉法人「知多地域障害者生活支援センターらいふ」の行う地域療育等支援事業及び半田市教育委員会の行う「障害のある子どものための教育相談体系化推進事業」が,現在進められており,障害児にかかわる医療,福祉,教育,労働等の機関が一体となった体制作りに向けて,動き出している。そうした事業に参画するとともに,個々の相談事例をとおして,地域の諸機関との連携を図っていきたいと考えている。



相談活動の実際
(ア) 相談活動の流れ
 システムができあがり,実際の相談活動を始めるにあたり,相談活動の流れを校内で共通理解した。図8は,相談活動の流れを示したものである。相談は全て予約制で行うため,申込みは電話で受け付けることになっている。管理職が電話の応対をすることが多いが,その際,「電話受付票」に大まかな相談内容と連絡先を記入し,地域支援部職員に連絡をしてもらう。その後,地域支援部内で,相談担当者,相談日時,場所等を決定し,相談者の方に連絡をし,受理面接を行う。受理面接後,相談の内容や主訴を検討し,相談の方針を立て,相談活動に入る。地域支援部内では,守秘義務を尊重しながら,相談事例を適切に理解し,対応できるようケース会議で検討をしたり,指導的立場の方にスーパービジョンを依頼したり,他機関との連携を図ったりしながら相談を進めている。

(イ) 相談の実施状況
 現在,ふれあい相談で担当する相談事例をまとめると,大きく二つにまとめることができる。一つは,障害のある幼児の相談で,就学に関する相談,家庭での養育や将来を見据えた進路についての相談である。もう一つは,小中学校に在籍する障害児の相談である。特に最近は,ADHDやLD,高機能自閉症の児童生徒の相談が多く,その障害についての理解と援助の仕方,よりよい学校生活や家庭生活に向けての支援が相談の中心となっている。さらに,障害の疑いをもちながら特別な教育支援を受けずに学校を卒業したが,進路がなく困っている事例も寄せられるようになってきている。
 平成13年度および平成14年度10月末までの期間に,ふれあい相談で実施した相談について,まとめたものを図に示した。図9は,障害別に相談件数をまとめたものである。自閉症及びその傾向にある子供の相談が一番多く,学習障害,ADHDの相談も出てきている。知的障害の相談事例では,継続相談になることは少なく,就学先の学級を検討するための知的能力に関するアセスメントを求めるものが多くあった。

 次に,年齢別の相談件数を図10に示す。多いのは,就学前と小学校低学年の相談である。一つには,障害が疑われたり,診断されたりすることで,就学先をめぐる相談であり,二つめには,通常の学級や特殊学級に就学したが,学校生活,家庭生活における問題にどう対処していったらよいか,障害についてどう理解していったらよいかといった相談である。また,年齢が上がると,進路に向けての相談も出てきている。


(ウ) 相談事例 
<事例1> 4歳男子,自閉症
事例の概要
 3歳児健診で言葉の遅れを指摘され,母子通園施設に通い言語訓練等を受け,その後,医療機関で「自閉症」の診断を受けた。
主訴
 保育園就園についてどのように考えたらよいか,パニックやこだわり等への対処を含め家庭養育について相談したい。
相談経過
 総合教育センターで相談が開始された。絵画語い発達検査を行い言語面の発達の状況の確認と学習を行ったところ,数か月でずいぶん成長が見られた。家庭での本児へ対応の仕方について話し合い,かかわりが安定したことからパニックやこだわり行動も減少し,地域の保育園への就園を決め,4歳児保育(年中)より通園することになった。保育園通園後,地域で特殊教育相談が受けられるよう,総合教育センターからふれあい相談が引き継ぎ,相談を行うことになった。定期的に来談され,家庭や保育園での生活の様子を聞き,その時々における対応の仕方について話し合いをしている。保育園入園当初は,本児の緊張や疲れが見られたが,徐々に園の生活に慣れ,現在は友達もできて遊びに行くことができるようになった。園においても,特に問題となる行動もなく,心配した偏食や車への偏った興味もなくなってきている。
 医療機関での診察や訓練も続けているが,それと連携しながら,ふれあい相談では主に母親の養育についての不安や生活場面での本児への接し方について,また本児に対しては遊びをとおして,コミュニケーションの発達や心理的な安定を目指したかかわりをもつようにしていきたいと考えている。

<事例2> 小学校2年生,8歳男子,学習障害
事例の概要
 就学前は保育園で自由におしゃべりができたため,母親も特に問題を感じていなかったが、小学校入学後,机に向う学習が始まったことで,学習面での困難性が現れ始めた。知的な遅れはなく,WISC-V知能検査の結果も標準以上の高い水準であった。
主訴
 平仮名が読めるようになってほしい。
相談の経過
 本児は,通常の学級に在籍し,学習困難な国語と算数のみ少人数での指導を受けている。「生活する上で,平仮名くらいは読めないと困るのだがどうしたらよいか」という相談であった。学習障害という診断を受けており,平仮名の読み書きをスムースに獲得するのは難しいと思われ,代替手段を講じていくことも必要であることを話した。ふれあい相談では,本児が得意とするワープロを利用した文章表現に取り組んだ。キーボード面の平仮名キーを,五十音の行ごとに色分けしてみたところ,本児は「分かりやすくなった」と言っている。集中時間はまだまだ短いものの,「大好きな母親あてに手紙を書こう」など,ちょっとした配慮や本人の興味を重視することで,本児が課題に取り組みやすくなることも分かってきた。
 また,本児は2年生に進級すると対人面のトラブルが見られるようになってきた。読み書きが難しいだけでなく,自分で考え,まとめたり表現したりすることも不器用な本児は,友達や教師ともトラブルを起こしやすく誤解を招きやすい。そこで,こうした学習障害児の特徴を周囲に知らせ,本児や級友に対しての配慮を講じてもらうことが必要だと考え,担任との連絡帳のやりとりを提案した。学校や家庭が共通理解をもち,いっしょになって考えていくことで,本児の二次的な不適応行動は徐々に解消できると考える。
 母親は「ふれあい相談は自分の気持ちを聞いてもらえる場」と表現している。今後も定期的に相談を継続しながら,本児への学習支援とともに,母親の心の負担が少しでも軽くなるように支援していきたいと考えている。

<事例3> 小学校3年生,9歳男子,自閉症
事例の概要
 4歳の時医療機関で自閉症と診断を受ける。その後,医療機関での定期的な診察と相談を受け,母子通園施設,通常の保育園を経て,現在は小学校の特殊学級に通っている。
主訴
 小学校2年生になって,自己主張が強くなり,思うようにならないとパニックや他害行為を示し,他児とのトラブルも増えてきたので,行動の理解と対応の仕方について知りたい。
相談の経過
 相談の中で,自閉症の子は比喩や暗喩を理解しにくいことや具体的な事柄や場面を示して働きかけを行うことが有効であることを,日常生活場面のできごとを通して,両親と話し合った。例えば,誤った行動をとったときに,親が見せる怖い顔をして見て,「どうしたらいいの」と泣くだけで行動を直せない本児に対し,母親は,『正しい行動を具体的に示して見せるとよい』ということを徐々に理解するようになってきた。
 本児も,ふれあい相談の遊びの場面で,大人の反応を気にしながら,ボールが天井にあたっても自罰意識をもって萎縮してしまう様子から,回を重ねるに従い,のびのびと自由に遊ぶ姿に変わってきており,生活場面でも適切なかかわりの中で安定して過ごせるようになってきている。
 最近では,学校でのトラブルが少しずつ減少してきており,また,問題が起こっても母子共にうまく対処できるようになってきたように感じる。今後も,定期的に相談を継続しながら,学校や家庭の生活により適応していけるよう支援をしていきたいと考えている。

(4) 実践のまとめ  目次へ戻る
 ふれあい相談を実施する中で,障害のある子供の日常起こる問題に日々不安や心配を抱く保護者に対し,地域で気軽に相談できる場があることは,重要なことだと感じる。実際,「総合教育センターに通うには両親で休みをとって一日がかりであったが,近くで相談できるようになりよかった」と話される保護者も多い。今後も,身近な地域の養護学校として,特殊教育に関する専門的なサービスが提供できることを目指したい。
 相談の中では,幼児児童生徒本人の障害や発達に関するアセスメントを行い,それをもとに発達支援や養育についてのアドバイスが適切に行えるよう心がけてきた。保護者の不安をじっくり聴き,直面する問題をいっしょに考えることで,保護者は障害や子供とのかかわり方等についての理解を深めていく。そうしたことを繰り返す中で,次第に我が子の成長する姿を実感し,良好な親子関係が形成されるとともに,障害受容にもつながるようである。
 事例によっては,在園・在学機関や医療機関等との連携や協力を図りながら,共にかかわるものもある。今後,障害児をとりまく家庭,教育,医療等の機関の連携をさらに深めることが重要であると考える。


5 研究成果のまとめと今後の課題  目次へ戻る
(1) 地域における特殊教育相談のニーズ
 本研究では,知多地区において養護学校ができる地域支援の一端として,障害のある子供とその保護者等に対する相談の拠点(ふれあい相談)づくりを行ってきた。その方法として,本総合教育センターで行っている知多地区在住の子供の相談を,半田市内(雁宿ホール等)に移し,養護学校の相談担当者とともに,教育相談を行うという形でスタートした。一方,養護学校では地域への広報活動や校内の組織づくり,実際の相談活動等を行ってきている。その中で,ふれあい相談への申し込みが少しずつ増えてきている。それは
 地域の通園施設や学校において,保護者から保護者へふれあい相談の内容が伝えられるようになった。
 地域への広報活動により,小学校・中学校から障害のある子供の母親へふれあい相談が紹介されるようになった。
 保育園,託児所等の保育士等が地域の広報を見て相談に訪れた。

等によるもので,養護学校の行う特殊教育相談が地域に浸透しつつあることをうかがわせる。
 障害のある子供を抱える保護者は,地域の中で個々のニーズに応じた専門的,総合的な支援を求めている。例えば,平成14年8月末に行われた県内各地の入学前就学相談では,知多地区における相談件数が最も多かった(図11)。これは,この地域における特殊教育相談へのニーズの高さを示すものであり,また,日常的に利用できる教育相談等の支援システムの整備が必要とされている状況がうかがわれる。当初養護学校が行う教育相談に対して,「うちの子供は養護学校への入学は考えていないんですが・・・」と,心理的抵抗感を示す申し込みがあったが,十分な説明のもと相談を進めるなかで安心して訪れることができるようになったケースもある。
 今後は,こうした点からも障害のある子供とその保護者の求める支援の内容を分析し,気軽に利用できる地域の支援システムを構築する必要があろう。

(2) 相談担当者の資質  目次へ戻る
 障害児を抱えることによって生じる保護者の心理的な混乱はたいへん大きい。それは,障害告知の際のみならず,子供の成長や発達の過程において,その節目ごとに新たな課題が生じ,保護者はその都度,不安や悩みを抱え具体的なアドバイスや支援を求めてくるものである。したがって,相談担当者は,一人一人の子供の実態を的確に捉え,子供の障害についてわかりやすく説明し,生活や学習上の課題を整理し,養育・指導の見通しがもてるように支援していくことが大切になってくる。また,場合によっては,障害の有無やその程度をある程度判断し,専門機関を紹介したり,関係機関と連携をとることも必要となってくる。しかし,地域にはこのような,障害児とその保護者の相談のニーズに応えることのできる相談機関や相談担当者が不足しているのが現状である。そこで本研究では,相談担当者に必要な資質や力量を,教育相談活動を通して次のように整理し,担当者の養成にも取り組んだ。

相談担当者の資質
 種々の障害に対する専門的な知識をもち,子供の実態を客観的に把握できる。
 子供の生活や学習上の課題を的確に整理し,それに基づく養育・指導等の見通しがもてる。
 保護者の障害受容の過程を踏まえ,適切な心理的支援ができる。
 障害のある子供の就学や進路選択に関する幅広い知識をもち,適切な支援ができる。
 医療,福祉,保健等の領域に関する知識や情報をもち,地域の関係者と連携・協力ができる。
 これらに対応する研修として,本総合教育センターでは「就学相談講座」,「教育相談講座(初級・中級・上級」,「特殊教育講座(特殊学級経営,軽度発達障害理解,自立活動)」,「特殊教育相談長期研修」等を行っているが,今回の「養護学校が行う特殊教育相談の拠点づくり」に際しても,これらの研修を最大限活用し,特に養護学校相談担当者を対象に以下のような研修を行ってきた。
  心理検査実習
  特殊教育相談実習
  カウンセリング演習
  障害特性の理解(軽度発達障害等)に関する研修
  教育相談事例研究会

 今後はさらに研修の内容を充実させるとともに,現在本総合教育センターで行っている相談関係の研修を体系化し,各地区で特殊教育相談を担う担当者を養成していく必要があろう。
6 おわりに  目次へ戻る
 本研究では養護学校が地域に対してできるサービスのひとつとして,特殊教育相談の役割を課題に取り上げた。その際,サービスを提供する側にどんなことができるのか,また,サービスを受ける側にどんなニーズがあるのかを明らかにしていくことが地域支援の第一歩であると痛感している。
 また,養護学校には,
(1) 様々な障害のある子供の教育に携わった経験のある教員がいること
(2) 障害のある子供に対し興味・関心を抱かせる遊具・教材が豊富であること
(3) 障害のある子供に配慮した施設・設備が整っている

などの利点があげられることから,次年度はこれらを生かして,地域の特殊学級担当者との交流・支援の可能性を現在模索している。
 さらに、障害のある子供やその保護者との教育相談を通して,
 子供の発達支援や養育等に関する情報提供,助言,支援をしてくれる専門家の確保
 地域の医療,福祉,教育に関する専門の相談・支援機関の充実
 地域における障害児者とその家族の多様なニーズに対する総合的な支援システムの確立
等の必要性が明らかになってきた。今後は,地域の医療,福祉,教育等様々な機能をもつ機関と専門家が相互に連携を図りながら,障害のある子供とその家族に対して,総合的な視点で支援が行えるようなシステムを確立することが重要である。その意味でも,地域にある養護学校が果たす役割は極めて大きいと考える。