1 製造業における安全教育の必要性

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 図1及び図2は、日本で労働災害がどれほど起こっているかをグラフにしたものです。これらの図から、工業高校の卒業生が最も多く就職する製造業は、全産業の中でも労働災害による死傷数及び死亡者数が比較的多いことが分かります。

図1 業種別死傷災害発生状況 図2 業種別死亡災害発生状況

 図3に示すように、死亡者数については、労働安全衛生法が施行された昭和47年ごろから激減しており、職場における安全衛生教育が労働災害の減少に大きく影響していることが分かります。こうしたことから、工業高校の専門科目において、安全教育を行うことは、自分自身の安全を確保するために大変重要なことです。

図3 労働災害による死亡者数の推移(厚生労働省調査データより)

2 ハインリッヒの「1:29:300の法則」と5つの駒

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 図4は、アメリカの保険技師ハインリッヒ氏が労働災害の事例の統計を分析した結果、導き出した「1:29:300の法則」です。その統計から1件の「重大災害」が発生する背景には、およそ29件のこれに類する「軽傷事故」が発生しており、さらに、事故には至らなかったものの、約300件のこれに関する「ヒヤリ・ハット」が発生しており、さらには、事故の原因ともなり得る数千件の「危険な状態」があることが明らかになりました。このことから、「KYT」(危険予知訓練)によって危険な状態がないかを認識し、ヒヤリ・ハットを無くすことが、災害を未然に防ぐために大変重要であることが分かります。

図4 ハインリッヒの1:29:300の法則 図5 ハインリッヒの5つの駒

 図5は“ハインリッヒの5つの駒”というもので災害が起こる要因を考えたものです。労働災害は5つの駒が将棋倒しのように次々と連鎖して起きてしまいます。この駒を取り除くことで連鎖が止まり事故を未然に防ぐことができます。まず、「設備的・環境的欠陥」ですが、これは「作業時に危険な段差がある」などのハード面での欠陥を指します。次に、「管理的欠陥」ですが、これは「安全教育がなされていない」などのソフト面での欠陥を指します。この二つのどちらかが欠けていても事故・災害につながる可能性が高いという事です。また、「不安全状態・行動」とは寝不足や注意不足などでこれによっても事故・災害が起こりやすくなります。KYTではこの3点に注目することにより効率よく事故・災害を未然に防ぐことができます。


3 ヒューマンエラー

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 ヒューマンエラーとは、人為的な過誤やミスのことで、JISでは、「意図しない結果を生じる人間の行為」と規定しています。人間は必ず不注意や錯覚を起こしますし、近道や省略をしてしまうために、ミスを起こしてしまいます。

(1) 不注意
 「不注意」とは、人間の注意の範囲には限界があるということです。例えば、図6のようなボタンの数が少ない機械では、一つ一つのボタンに注意すれば危険なボタンを見つけることができますが、図7のようなボタンの数が多い機械では、危険なボタンを見つけることが困難になります。

図6 ボタンの数が少ない機械 図7 ボタンの数が多い機械

 不注意が生じる原因には、次のようなことがあります。まず、先ほどの例で示したように、人間の注意の範囲には限界があります。次に、人間は自分と関係ないものには注意をしない傾向があります。つまり、自分に関係がない、興味がないものには、意識をしないと注意は出来ないものです。そして、注意には方向性があります。例えば、意識をしない限り、後ろから飛んでくるボールなどは避けられません。さらに、人間の注意は時間とともに変動し、リズムがあります。人間は、一つの物事に集中し続ける事は不可能で、時々他のものに気をとられることがあります。こうした原因から人間はヒューマンエラーを起こし、意図しない結果を生じてしまうことがあります。

(2) 錯誤・錯覚
 次に、錯誤・錯覚についてです。人間の感覚はとても曖昧なもので、正確に判断できないことがあります。また、視覚は周りの状況によって影響されます。図8のような絵を見られた事があると思いますが、中央の丸の大きさが同じであるのに左の方が大きく見えてしまいます。これが視覚の錯誤です。

図8 錯誤・錯覚の例

 このように視覚は、全てを正確には判断できないことがあります。また、聴覚においても、救急車のサイレンがどちらから聞こえてくるか間違えた経験はありませんか?さらに、触覚においても、同じ温度のお風呂でも夏と冬では体感温度がかなり違います。時間の感覚についても、同じ1時間でも楽しいときとつまらないときでは全く違って感じてしまいます。これらが錯誤や錯覚といわれるものです。

(3) 近道・省略
 3つ目は、近道・省略です。図9で、SからGに行くとき、右にある渡りを通って行くことが安全です。しかし、人間はつい近道をしたがるものであり、「まあいいや」と考えて危険なところを飛び越えて渡ろうとします。これが原因となって、事故を起こしてしまいます。

図9 近道・省略の例

 このように「不注意」、「錯誤・錯覚」、「近道・省略」は、不安全状態・行動を起こし、事故や災害につながっていきます。そして、ヒューマンエラーを起こさないようにするために、KYT(危険予知訓練)による意識付けが必要となってくるのです。


4 KYT(危険予知訓練)の基本

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 KYTとは、イラストが描かれた訓練シートを使って、その中に潜む危険要因とそれが引き起こす現象を、5人前後の小グループで話し合って、危険ポイントや重点実施項目を唱和し、指差呼称して意識付け、行動する前に安全を先取りする訓練です。  通常の実習の中で容易に実施することが可能な技法で、作業中に「ヒヤリ」、「ハット」した事例や、作業の中に潜む数限りない危険要因等をとらえて、その危険性を正しく認識できるよう感受性を高め、危険を察知するコツを身に付けることができます。
 KYTには最も基本的な「4ラウンドKYT」のほか、メンバー構成や作業状況、費やす時間などにより、「短時間KYT」、「一人KYT」など様々な手法のKYTがありますが、ここでは、最も基本となる「4ラウンドKYT」を説明します。
 「4ラウンドKYT」の4つのラウンドとは「現状把握」、「本質追究」、「対策樹立」、「目標設定」の4つのことで、この順序に従って訓練します。

(1) 第1R「現状把握」
 第1Rでは、「どんな危険が潜んでいるか?」という観点で話し合いによって危険要因を発見し、それによって起きる災害を想定します。「状態」、「行動」、「現象」の3つの表現でまとめ、想定される危険をできるだけ多く列挙します。

(2) 第2R「本質追究」
 第2Rでは、「これが危険のポイントだ!」という観点で、第1Rで挙げた危険要因を2〜3項目に絞り込みます。まず、危険事態が発生する確率や、確率は小さくてもそれが起きた場合の事態の深刻さを考慮して、重要と思われる危険と危険要因に○印を付けます。また、その中で特に重要と考えられる項目(2〜3項目)に◎印を付けます。そして、その危険を招くポイントにアンダーラインを引きます。

(3) 第3R「対策樹立」
 第3Rでは、「あなたならどうする?」という観点で予防策を検討します。重要と判断した危険要因に対して、「危険が現実のものにならないようにするためにどうすればよいか」を考え、具体的な予防策を検討します。

(4) 第4R「目標設定」
 第4Rでは、「私たちはこうする!」という目標を設定します。第3Rで立てた対応策のうち、現実的で実効性のあるものを選び、同様の状況や作業における行動規範(安全のコツ、安全目標=安全のための行動目標)として、「○○○○ヨシ!」というスローガンを設定します。

(5) 指差呼称
 最後に設定したスローガンを「指差呼称」します。指差呼称は、図10の手順で行います。このようにして「眼・口・耳・指」を刺激し、危険な状態が起きないよう、頭にしっかりと意識させます。

1 対象をしっかりと見て確認します。 2 呼称項目を「○○○○」と大きな声で言います。
3 右腕を伸ばし、人指し指で対象を指差します。 4 右手を耳元へ振り上げ「本当によいか?」自問し、考えて確かめます。
5 「ヨシ!」と大きな声で唱えながら、右手を振り下ろします。
図10 指差呼称のやり方

5 実習でのKYT実践例「硫酸の希釈」

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図11は、化学の実習で、水を入れたビーカーに濃硫酸を入れて希硫酸に薄めているところです。どんな危険が潜んでいるかを考え、KYTを実践してみましょう。

図11 硫酸の希釈

(1) 第1R「現状把握」
 この実習に潜んでいる危険について話し合い、それによって起きる災害を想定します。すると、次のような災害が起きることが考えられます。
@ 一気に水に硫酸を入れると、突沸して、ビーカーが割れ、眼や身体にかかる。
A 硫酸の瓶を持ったとき、外側に硫酸が付着していると、滑って瓶を落とす。
B 徐々に硫酸を入れていったとき、硫酸がビーカーの外側に伝わって、持っている手を火傷する。
C 硫酸がビーカーに入るとき、ビーカー内の希硫酸が飛び跳ねて、しずくが手にかかる。

(2) 第2R「本質追求」
 特に関心のあることや、重大事故、緊急に対策しなくてはならないことに絞り込み、アンダーラインを引きます。すると、身体や手といったところへの危険が多いことが分かります。
@ 一気に水に硫酸を入れると、突沸して、ビーカーが割れ、眼や身体にかかる。
A 硫酸の瓶を持ったとき、外側に硫酸が付着していると、滑って瓶を落とす。
B 徐々に硫酸を入れていったとき、硫酸がビーカーの外側に伝わって、持っている
手を火傷する。
C 硫酸がビーカーに入るとき、ビーカー内の希硫酸が飛び跳ねて、しずくが
手にかかる。

(3) 第3R「対策樹立」
 こうした手や身体への危険に対しての方策を出していきます。するとそれぞれの危険についていくつもの方策が出てきます。
@ 少しずつ硫酸を入れる。
A 水浴中で冷やしながら入れる。
B 試験瓶に硫酸が付着していないか確認する。
C 保護メガネ、ゴム手袋を着用する。
D ビーカーの取扱いに注意する。
E ガラス棒に伝わせながら入れる。

(4) 第4R「目標設定」
 最後に、全員でポイントを絞り込んで目標を設定します。
 例えば、「水浴中で冷やしながら、ゆっくり硫酸を滴下する」ことを確実に実行するために「水浴、ゆっくり滴下ヨシ!」をスローガンとします。

(5) 「指差呼称」
 最後に全員で声を合わせて、大きな声でスローガンを言って指差呼称します。

図12 指差呼称

6 工業系実習(系列別練習シート)

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図13 機械系実習KYT練習シート
図14 建築・土木系実習KYT練習シート
図15 化学・セラミック系実習KYT練習シート

7 工業系実習(系列別問題シート)

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図16 機械系実習KYT問題シート
図17 電気系実習KYT問題シート
図18 建築系実習KYT問題シート
図19 土木系実習KYT問題シート
図20 化学系実習KYT問題シート
図21 セラミック系実習KYT問題シート
図22 デザイン系実習KYT問題シート

8 4S・5S

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 「整理」、「整頓」、「清潔」、「清掃」の4つの頭文字をとって、「4S」といいます。また、これに「しつけ」を加えて「5S」といいます。 「4S」、「5S」を推進することで、異常を早期に発見することができ、ヒューマンエラーによる事故を防止し、作業能率も向上します。

(1) 「整理」
 「必要なもの」と「不要なもの」を区別し、「不要なもの」を捨てることで、「いつか使うかもしれないもの」を思い切って捨てることが重要です。

(2) 「整頓」
 決められた物を決められた場所に置き、必要なときに容易に探し出せるように整えて配置・収納しておくことです。

(3) 「清掃」
 作業によって生じたちり・ほこり・ごみを片付け、常に掃除をして、職場を清潔に保つことです。

(4) 「清潔」
 作業場所や衣服・装備に汚れやキズがないようにすることや、「整理」・「整頓」・「清掃」を維持することです 。

(5) 「しつけ」
 決められたルールを各自に徹底し、あいさつや身だしなみも含めて規律を高め、組織の一体感を醸し出すことです。

9 関係リンク

  ・中央労働災害防止協会のゼロ災運動・KY(危険予知)のホームページ(外部リンク)
  ・厚生労働省のヒヤリハット事例集のホームページ(外部リンク)